息子(ラグ男)は中学3年生。クラブチームでラグビーをしています。
ラグビーの試合中、タックルを受けた選手が倒れたまま動かない。
コーチが駆け寄り、周りにいた大人から、
「救急車を呼んで!」
と声が上がる。
そんな場面に遭遇したとき、119番で何を伝えればいいのか。救急車が来るまで、親は何をすればいいのか。
頭では分かっているつもりでも、実際に目の前で子どもが倒れたら、落ち着いて行動するのは簡単ではありません。
私は消防で勤務していた当時、災害救急情報センター、いわゆる通信指令室で約5年間、119番を受ける仕事をしていました。
だからこそこの記事では、119番を受ける側として多くの通報を聞いてきた経験から、
「何を最初に伝えてほしいのか」
「どうすれば救急車が早く傷病者のもとへたどり着けるのか」
を中心にお伝えします。
スポーツ現場の救急対応シリーズ、第1回です。
※この記事は、公的機関の情報と筆者の消防勤務経験をもとにした一般的な内容です。実際の場面では、119番の通信指令員、現場の指導者、医療従事者の指示を優先してください。
まず判断——119番か、#7119・Q助か

最初に迷うのが、
「このケガで救急車を呼んでもいいの?」
という判断だと思います。
明らかな緊急事態は、迷わず119番
次のような状態があるときは、迷わず119番です。

- 意識がない
- 呼びかけへの反応が鈍い
- 普段どおりの呼吸をしていない
- けいれんしている
- 大量に出血している
- 手足に力が入らない、感覚がない
- 首や背中を強く痛がり、動けない
- 頭を強く打ったあと、急速に症状が悪化している
「大げさかもしれない」とためらっている間にも、状態が悪化する可能性があります。
明らかに緊急性が高い場合は、#7119ではなく119番へ通報してください。
「重症度」と「緊急度」は同じではない
ここで知っておきたいのが、「重症度」と「緊急度」の違いです。
重症度は、最終的にそのケガや病気がどれくらい重いかということ。
一方の緊急度は、処置や受診が遅れることで、命や体の機能にどれだけ影響する可能性があるかということです。
普通に会話ができているからといって、必ずしも緊急度が低いとは限りません。
たとえば、一見すると単なる骨折に見えても、
- 痛みが急に強くなっている
- 腫れがどんどんひどくなっている
- 指先の感覚がない、しびれている
- 指先が冷たい、白い、紫色になっている
- ひどく変形している
- 出血が止まらない
- 安全に自力で病院へ行けない
といった場合は、血管や神経が傷ついている可能性も考えられます。
「会話ができるから大丈夫」
「骨折くらいなら自分たちで運べる」
と決めつけず、症状が悪化しているときは119番を考えてください。
呼ぶべきか迷ったら、#7119やQ助を利用する
意識や呼吸は安定しているものの、救急車を呼ぶべきか、自分たちで病院へ行くべきか迷う場合は、地域の#7119や、消防庁の「Q助」を利用する方法があります。
#7119は、急な病気やケガをしたとき、救急車を呼ぶべきか、今すぐ病院へ行くべきかなどを相談できる窓口です。実施地域や受付時間は地域によって異なります。
「Q助」は症状を選択していくと、緊急度に応じた対応の目安を確認できる全国版の救急受診アプリです。
案内された病院には、向かう前に電話する
ここは、ぜひ覚えておいてほしいところです。
#7119で病院を案内されても、その病院で必ず診てもらえると確約されたわけではありません。
#7119では、病院から提供された情報をもとに、その時点で診察できる可能性のある医療機関を案内しています。
その後に急患が入ったり、該当する診療科の医師が対応できなくなったりすることもあります。
何も連絡せずに病院へ向かい、到着してから、
「今日は診察できません」
と言われる可能性もあります。
案内された病院には、向かう前に必ず自分で電話をして、症状を伝えたうえで診察してもらえるか確認してください。
脳振盪を疑ったら、その日はプレーに戻さない
ラグビーでは、頭や首への強い衝撃にも注意が必要です。
頭を打ったあとに、ぼんやりしている、記憶があいまい、受け答えがおかしい、ふらつくといった様子があれば、脳振盪を疑い、その日のプレーには戻さないことが原則です。
意識がない、けいれんしている、嘔吐を繰り返す、手足が動かしにくい、症状が悪化している場合などは、迷わず119番へ。
脳振盪については、こちらの記事で詳しく書いています。
関連記事:元消防士ママが解説|ラグビー少年の脳震盪、知っておきたい基礎知識と見分け方
119番で最初に必要なのは「救急車が向かう住所」

救急車を呼ぶと決めたら、119番に電話します。
指令員から最初に、
「火事ですか、救急ですか?」
と聞かれるので、
「救急です」
と答えてください。
次に聞かれるのが、救急車が向かう住所です。
何が起きたのかを早く説明したくなる気持ちは分かります。でも、救急車を向かわせるためには、まず場所を特定しなければなりません。
「早く来てください!」
「子どもが倒れています!」
だけでは、救急車は現場へ向かえないのです。
住所は、
「〇〇市(〇〇区)〇〇町〇丁目〇番〇号」
と、市区町村から伝えます。
違う市や区に同じ町名があることは珍しくありません。「中町」「本町」など、よくある町名は特に注意が必要です。
東京消防庁も、119番では、まず「救急車が向かう住所」を伝えるよう案内しています。
スポーツ会場では、施設内の場所まで伝える
スポーツ会場では、施設の住所まで分かっても、それだけで救急車が傷病者のところへ着けるとは限りません。
大きな運動公園の中にグラウンドがいくつもあったり、入口が複数あったり、救急車が入れない門があったりするからです。
まず正確な住所を伝え、そのあとに、
- 施設名
- グラウンド名や番号
- 傷病者がいる場所
- 救急車が入れる入口
- 近くに見える建物や目印
を補足します。
住所は、救急車を施設まで向かわせるための情報。
グラウンド名や入口は、救急車を施設の中から傷病者のもとへつなぐための情報です。
スマホの位置情報は、住所の代わりにはならない
スマートフォンから119番をすると、電話番号に加え、GPSや携帯電話の基地局を利用した位置情報が消防機関へ通知される仕組みがあります。
ただし、それだけで正確な住所が分かるとは限りません。
GPSや基地局の状況によって誤差があり、「この付近」という範囲までしか絞れないこともあります。
とくに広いスポーツ施設では、施設周辺まで分かっても、どのグラウンドに傷病者がいるのか、救急車がどの入口から入ればよいのかまでは分かりません。
状況によっては、携帯電話会社へ位置情報の提供を求めることもありますが、情報を得るまでには時間がかかり、必ずしも正確な住所を特定できるわけではありません。
「スマホからかければ、消防側で居場所が分かるだろう」
と思わず、自分の言葉で住所を伝えてください。
位置情報は、あくまで場所を探すための手掛かりです。住所の代わりにはなりません。
住所が分からなければ、周囲の人に助けを求める
遠征先や初めて訪れたグラウンドでは、住所が分からないこともあります。
そんなとき、自分ひとりで何とか調べようとしていると、時間だけが過ぎてしまいます。
周囲の人に、
「救急車を呼びたいのですが、ここの住所は分かりますか?」
と聞いてください。
近くにお店やコンビニがあれば、店員さんに住所を尋ねる方法もあります。施設の受付や警備員、近隣にいる人など、場所を知っていそうな人に助けを求めましょう。
正確な住所が分からない場合は、次のような情報も場所を特定する手掛かりになります。
- 建物や店舗の名称
- 道路や交差点の名称
- 駅やバス停
- 公園や橋などの公共施設
- 住所が書かれた街区表示板
それでも、せめて「何市(何区)何町」まで分かると、場所の特定はぐんと早くなります。
住所が分からないからと119番をためらうのではなく、周囲の人にも助けを求め、分かる情報を集めてください。
通報は、指令員の質問に一問一答で大丈夫

住所を伝えたあとは、指令員が傷病者の状態を順番に質問します。
「誰が、どうしましたか?」
「意識はありますか?」
「呼吸はしていますか?」
「何歳くらいですか?」
「どのようにケガをしましたか?」
通報する人が、最初からすべてを完璧に説明する必要はありません。
基本は、指令員から聞かれたことに、一問一答で答えれば大丈夫です。
分からないことは、無理に答えを作らず、
「分かりません」
と伝えてください。
質問が続くと、
「そんなことより、早く救急車を出して!」
と思ってしまうかもしれません。
でも指令室では、通報者から場所や症状を聞き取るのと並行して、現場の近くにいる出動可能な救急車を探し、出動の手配を進めています。
慌てず、指令員の質問に一つずつ答えてください。
状況によっては、消防車も一緒に来る
救急隊は、多くの場合3人で活動しています。
通報内容や現場の状況から、救急隊だけでは対応が難しいと判断された場合や、近くの消防隊による早い救護が必要な場合などには、救急車と一緒に消防車が出動することがあります。
これは、ポンプ車の「P」と救急車の「A」を取って「PA連携」と呼ばれる活動です。
救急車を呼んだのに消防車が来ると、
「火事じゃないのに、どうして?」
と驚くかもしれません。
でも、間違って来たわけではありません。救急活動を支援するために出動しています。
通報後も、電話に出られるようにしておく
東京消防庁の場合、救急車が出動したあと、実際に現場へ向かっている救急隊員から、119番に使った電話へ連絡が入ることがあります。
また、通信指令センターから再度連絡が来る場合もあります。
119番を終えたあとは、
- 電話の電源を切らない
- 着信音が聞こえる状態にする
- 知らない番号からでも電話に出る
- できるだけ通報に使った人が電話を持つ
ことを意識してください。
消防本部によって運用は異なりますが、救急車が到着するまで連絡が来る可能性があると思っておくと安心です。
救急車を呼んだら、施設の人にも必ず知らせる

学校や競技場、大きな運動施設で救急車を呼んだ場合は、119番をして終わりではありません。
必ず、その施設の受付や警備員などに、
「救急車を呼びました。〇〇グラウンドで選手がケガをしています」
と知らせてください。
施設の関係者が通報のことを知らないと、救急車が到着しても、入口で、
「救急車が来るとは聞いていません」
となり、傷病者のいる場所までたどり着くのに時間がかかってしまうことがあります。
入口の開錠や、車止めの解除が必要な施設もあります。
救急車を呼んだら、次のことも確認しましょう。
- 受付や警備員に連絡したか
- 救急車はどの入口から入るのか
- 門や車止めを開けてもらえるか
- 傷病者のいる場所まで車両が入れるか
- 入口で救急車を待つ人がいるか
救急車を施設まで呼ぶだけではなく、傷病者のいる場所までつなぐ。
ここまでが、現場にいる私たちにできる大切な役割です。
周囲にいる人で役割を分ける
たくさんの人がいるからといって、必ずしもスムーズに動けるとは限りません。
「誰かお願いします」
では、みんなが誰かに任せてしまうこともあります。
できれば、次のように役割を分けます。
- 119番をする人
- 傷病者のそばにいる人
- 受付や警備員へ知らせる人
- 救急車を入口から誘導する人
- AEDを取りに行く人
- ケガをした時間や症状の変化を記録する人
- 周囲の人を離し、救急車の通り道を確保する人
「誰か救急車を誘導してください」ではなく、
「〇〇さん、正面入口で救急車を待ってください」
と名前を呼んで頼んだほうが、役割がはっきりします。
救急車が来るまでに、その場でできること
救急車を待つ間は、まず周囲の安全を確保します。
頭や首、背中のケガが疑われる場合は、不用意に起こしたり、座らせたり、移動させたりしないことが基本です。
ただし、その場所に別の危険がある場合や、普段どおりの呼吸がなく救命処置が必要な場合は、人命を守る行動が優先されます。
迷ったときは、119番の指令員の指示に従ってください。
反応がなく、普段どおりの呼吸がない、または呼吸をしているか判断できない場合は、119番通報、AEDの手配、胸骨圧迫を行います。
胸骨圧迫やAEDについては、次回の記事で詳しく書く予定です。
出血がある場合は、血液に直接触れないよう手袋やビニール袋を使い、清潔な布などで傷口を直接押さえます。
また、救急隊へ伝えられるよう、次のことを分かる範囲で記録しておきましょう。
- 何時ごろケガをしたか
- どのようなプレーで負傷したか
- 一度でも意識を失ったか
- 嘔吐やけいれんがあったか
- 症状がどのように変化したか
- どのような応急手当をしたか
元通信指令員として伝えたいこと
119番を受けていた経験から、いちばん伝えたいのは、
「全部を自分で説明しなければ」
と焦らなくて大丈夫だということです。
まず、救急車が向かう住所を伝える。
あとは、指令員の質問に一つずつ答える。
住所が分からなければ、周囲の人に助けを求める。
救急車を呼んだら、施設の受付や警備員にも知らせ、傷病者のいる場所まで誘導する。
これだけでも、救急車が傷病者のもとへたどり着くまでの流れは変わります。
スポーツ会場では、たくさんの人がいても、誰が何をするのか決まっていないと動けないものです。
だからこそ普段から、よく使うグラウンドの住所とAEDの場所を確認しておく。
チームや保護者同士で、
「もしものとき、誰が何をするか」
を話しておく。
そんな小さな準備が、いざというときの大きな助けになります。
まとめ|まず住所。そして、質問に一つずつ答える

今回は、スポーツ現場で救急車を呼ぶときのポイントと、到着するまでにできることをお伝えしました。
今回のポイントをまとめます。
- 明らかな緊急事態では迷わず119番
- 会話ができていても、緊急度が高いケガはある
- 呼ぶべきか迷うときは、地域の#7119やQ助を活用する
- #7119で病院を案内されても、向かう前に病院へ電話する
- 119番では、まず救急車が向かう住所を伝える
- スマホの位置情報は、正確な住所の代わりにはならない
- 住所が分からなければ、周囲の人にも助けを求める
- 通報は、指令員の質問に一問一答すれば大丈夫
- 通報後も、救急隊や指令室からの電話に出られるようにする
- 施設の受付や警備員に知らせ、救急車を傷病者のもとまで誘導する
- 普段からグラウンドの住所とAEDの場所を確認しておく
救急車を呼ぶような場面では、誰でも慌てます。
それでも、
「まず、住所」
これだけは覚えておいてください。
救急車を施設まで呼び、傷病者のいる場所まで確実につなぐ。そこまでが、現場にいる私たちにできる大切な役割です。
秋季大会も各地で始まっていることと思います。
もちろん、こうした知識を使わずに済むことが一番です。でも、万が一に備えて知っておくことも、子どもたちを支える私たち親にできるサポートのひとつだと思います。
ラグ男たちにとっても、中学最後の秋季大会。
子どもたちがケガなく、これまで積み重ねてきた力を出し切り、思い切り戦い抜けるように。私たち親も、精いっぱい応援していきましょう!
次回は、スポーツ現場でAEDが必要になったとき、親はどう動けばいいのかを、もう少し具体的に書きたいと思います。
※この記事は一般的な情報です。実際の場面では、119番の通信指令員、現場の指導者、医療従事者の指示を優先してください。

